アジアのオーケストラ研究

中華圏、東南アジアを中心とするアジアのオーケストラ(西洋音楽)を、まずはCDとYoutubeを中心とする映像を使って検討します。はじめは未熟な点ばかりでしょうが、少しずつ充実して行きます。

上海交響楽団(1)

概要

中国のオーケストラがどういうイメージを持たれているのか私は知らないが、上海交響楽団はしなやかで、強烈な個性こそ感じられないが、上海らしい柔軟性をもつ素敵なオーケストラだと思う。

 

上海交響楽団の最も古い姿は1879年に遡ることが出来るという。

阿片戦争を経て、上海にイギリス租界が出来るのが1845年、アメリカ租界が1848年、続いてフランス租界が1849年。イギリスとアメリカの租界はその後「共同租界」となった。

2016年10月に外務省が発表している海外在留邦人数調査統計によれば、在上海総領事館が把握している在留邦人数は約58,000人。上海の領事館でビザ発行が出来るのは上海市、江蘇省、浙江省、安徽省及び江西省ということだそうで、届け出をしていない人や、その他いろいろな人を含むと、現在上海には4~5万人くらい日本人がいるのかなと想像するが、現在の仙霞路や古北路には日本人向けのカラオケやマッサージ店などがたくさんある。

当時の欧米人も仕事以外の娯楽は勿論必要であって、それは競馬や演劇であったが、勿論音楽だって必要、ということになろう。専ら欧米人向けに創設されたのである。

 

創立からの経緯は後に譲るが、語り尽くせぬほどの変遷を経て、現在の上海交響楽団はある。租界という極めて珍しい社会の中から生まれ、ロシア革命ユダヤ人迫害、日本の侵略、戦後になって中国人自身のオーケストラになった後も文化大革命があった。

 

上海交響楽団の本拠地は2014年9月から上海交響楽団音楽廳(Shanghai Symphony Orchestra Hall)で、これは素晴らしいホール。と思ったら設計は何と音響設計が豊田泰久氏、意匠設計は磯崎新氏だった。勿論お金持ちなのだ。

所謂旧フランス租界にあるのだが、旧フランス租界は未だに古めかしい洋館風の建物がおおく、ホールに行くまでも楽しいし、帰り道もふらっとバーに寄ったりしても好いだろう。この辺りは英語が通じるお店もおおい。

复兴中路 - Google 検索

 

さて、どのようなコンサートをしていて、どの程度のレベルなのかは、

以下の映像及び音源を紹介させていただく。

映像

ヴェルディ/『運命の力』序曲(ダニエーレ・ガッティ指揮)。音が悪いのが残念。

youtu.be

以上は2016年ニューイヤーコンサートから。指揮は大分ユルい感じであった。

本筋と関係ないツッコミをふたつ。

1)ガッティ、うるさいっすね。コバケンやチェリビダッケを知っている

 私達ではあるが、少し加山雄三に似たこの声は妙に気にかかる。

 

2)この曲は2nd フルートに出番がない。

 私はこういう女性、何故か惹かれる…。踏んづけてもらいたい。

 

続いてはズヴェーデン。相変わらず音が悪いが、一転して物凄い緊張感。

ベートーヴェン交響曲第5番より第一楽章

youtu.be

時々アンサンブルが乱れるが、オーケストラの反応は素晴らしいと思う。

こんなずーっと怒鳴っているような演奏は聴いたことがない。

ズヴェーデンは2012年にダラス交響楽団でアルバムを作っているが、やはりぐいぐい

引っ張る演奏ではあるが、ここまで異様な迫力はなかったし、ここには弱音がある。

 

<音源>Google Play Musicによる

ベートーヴェン交響曲第5番&7番

https://play.google.com/music/m/Bkrnmtdwerciwvss6iddrirjiee?t=Beethoven_Symphonies_Nos_5__7_-_Ludwig_Van_Beethoven

 

この日は他にブルッフのヴァイオリン協奏曲などもあり、これも猛烈な演奏なので

お時間のある方は是非。怒鳴り散らかしながらも内声がぎっしり詰まったような

迫力が、貧しい音質からも聴き取れる。

ズヴェーデンはご承知の通り現在香港フィルの音楽監督としても活躍中だ。

今後何度も紹介することとなろう。

 

少し個性のつよい指揮者ばかりを採り上げたが、美しい演奏もある。古い映像だが。

ベートーヴェン交響曲第4番/黄屹指揮

youtu.be

黄屹(Huang Yi)はこの頃まだ24~5歳のはずで、海外でティーレマン、G・クーン、

小澤征爾などのアシスタントを勤めたりした後の凱旋公演的な演奏のはずだ。

現在中国各地で活躍中。

黄の、あり得るべき空間にふさわしい音を置いてゆくようなスタイルのせいか

オーケストラはとても美しい音で答えている。余談だがガッティの時暇だったフルートのおねえさんはここでは大活躍、やはり踏まれてみたい。

 

定期演奏会内容

2017年の秋以降の演目を見てみる。

www.shsymphony.com

9月 オープニングコンサート:余隆指揮、ロルティのピアノ独奏

  ラヴェル/ピアノ協奏曲

  ベルリオーズ幻想交響曲

 

余隆は中国を代表する指揮者で、上海交響楽団の音楽監督だ。

私は敬意を込めて中国指揮界のPSYと呼ぶことにする。

写真を見ると、ちょい悪オヤジを目指している模様。

 

9月:張国勇指揮

オールチャイコフスキープロ

   『エフゲニー・オネーギン』よりポロネーズ

    ヴァイオリン協奏曲

    交響曲第6番

 

張国勇は所謂オーケストラだけでなく、中国の伝統音楽にも精通する指揮者で、

後出する陳燮陽をはじめ中国にはそういう指揮者が複数存在する。

 

10月:余隆指揮、F・P・ツィンマーマン独奏でバッハとベートーヴェンの協奏曲。

 

10月:陳燮陽指揮 朱践耳作品集

   朱践耳は中国作曲界の大御所だが、正直に申し上げて私は余り知らない。

   数曲耳を通すと、作風は民族主義風で、交響曲第3番「チベット

   第1楽章はこんな感じである。

youtu.be

指揮の陳燮陽も大御所であるが、正直まだよく知らない。伝統音楽の指揮も手掛ける。

こんな楽しい映像もあるので、貼っておく。非常に雰囲気のある指揮者。

youtu.be

手首の使い方は所謂西洋音楽の指揮者には見られないものだ。

 

11月:余隆指揮

   ラフマニノフピアノ協奏曲第2番

   ショスタコーヴィチ交響曲第12番

 

11月:アンドリス・ポアガ(ラトヴィアの指揮者)指揮、ウィーン楽友協会合唱団

  オールモーツァルトプロ

  アヴェ・ヴェルム・コルプス

  エクスルターテ・ユビラーテ

  レクイエム

 

ウイーン楽友協会合唱団とは、懐かしい名前だ。カラヤン没後初めて目にした。

  

11月:アンドリス・ポアガ指揮、ウィーン楽友協会合唱団

   ブラームスドイツ・レクイエム

 

何故かこの11月の2種のチケットは8月7日に全て売り切れである…。

 

12月:張潔敏指揮、王健(Wang Jian)チェロ

   Zhao Lin:チェロと笙のための二重協奏曲<度>

   エルガー:チェロ協奏曲

張潔敏もよく知らないのだが、オペラを得意とする指揮者とのこと。

ボローニャ在住のようだ。王健は、ジャン・ワンのこと。

Zhao Linも分からない。引き続きこのあたりは調査する。

 

12月:黄佳俊指揮、ロルティのピアノ独奏

   ブラームス/大学祝典序曲

   丁善徳/ピアノ協奏曲

   ブラームス交響曲第4番

 

さて。黄佳俊(Kahchun Wong)は私は知らなかったが注目の指揮者のようだ。

1986年のシンガポール出身。

映像もある。多くが限定公開になっているようなので、それぞれリンクを貼る。

B・A・ツィンマーマン/1楽章の交響曲

www.hirasaoffice06.com

指揮が抜群に上手い。イメージ喚起力も。ブーレーズデュトワ級ではないか。

 

これは各地でのコンサートの切り貼り。とにかく器用だ。

www.operamusica.com

最後はこれで。西洋音楽にカンフーとコントが合体、大爆笑の大団円(褒めてます)。

youtu.be

すごい天才を見つけてしまった…。間違いなく天才。

あーこの人は絶対生で聴きたいなあ!

 

丁善徳(Ding Shande)は故人で、代表作に『長征交響曲』。

youtu.be

えらく聴きやすい音楽である。童謡のようだ…。

 

2017年の最後、大晦日のニューイヤーコンサートはホーネックを招いた。

2018年は後日コメントしたい。セーゲルスタム、ズヴェーデン、デュトワなど

大物客演が続く。

 

次回は上海交響楽団の歴史を紐解く。